paingain’s blog

私の思考の記録

苦しい恋をしたことはあるか。

大好きだった先生がいた。

 

高校1年生の夏のこと、それは予期せぬ場面で訪れた。

 

今でも忘れられない記憶を思い起こす。

 

その人は

学校にも一定数ファンがいるくらい顔が整っていて

担当教科は社会科

某有名私立大学を卒業したのち地元の高校で教員になる道を選んだそうだ

 

色白で背も高く、冷静沈着

頭の回転が速く、生徒であれ容赦ない態度から

氷の王子と呼ぶ生徒もいた

車から降りてくる姿はいつでもさまになっていた。

 

私は1年で世界史のクラスを持ってもらっていたが

淡々と進む授業と

その冷ややかで何を考えているかわからない目が実を言うと苦手だった。

 

高校で私は吹奏楽部に入部した。

中学の苦い経験から、バスケ部には入らなかった。

今でも正しい決断だったかと問われると首をひねる。

私は当時から何をしたいのか、自分でもよくわかっていなかった

ちょうど海流にのって生きる海月のように周りの人たちに流されて生きる日々を送っていた

 

そんなある日

バスケ部のクラスメイトから声がかかった

今度の土曜、練習試合があるのだが人数が足りずに人を集めていると。

 

誰かが私が元バスケ部だったと言いつけたようだ

余計なことを。偽善者か

 

面倒なことには関わりたくなかった

「その日は私も部活があるし、、」

ごめんね

と断ろうとしたとき、

「私も声かけられてさあ~、同じ元バスケ部同士、一緒に試合でない??私もブランクあるしお互い様だよ!!なんとかなるって!」

と違うクラスメイトに押し切られた。

その子は中学のバスケの試合で何度か対戦したことがあったし、

偶然にも私の後ろの席だった。

入学式当日はそのことで話が盛り上がった子だった。

 

確信した。この子が言ったのだと。

2人の圧に負け、渋々引き受けることとなった私は次の土曜まで何度かバスケ部の練習にも参加させられるはめになった。

 

もう後戻りはできなかったし、

あれほど嫌いだと思って遠ざけていたバスケも練習していると当時の感覚を思い出して意外にも楽しんでいる自分がいたし吹奏楽部に入ったのは間違いだったんじゃないかとさえ思った次第だった

 

土曜の朝、練習試合当日。

会場には同じ高校の男子バスケ部もいてどうやら同じ場所で練習試合をするらしかった

バスケ部あるあるだ。

 

試合開始前にアップをし、それなりに体が温まってきたところで

顧問から招集がかかった。

 

練習と言えど、試合

いつもとは違う会場とチームの雰囲気と顧問の様子に体が緊張で強張っていくのを感じた。

 

試合開始のホイッスルと共に、バスケットが始まった。

苦しくて辛くてでも楽しい、そんなバスケに気づけば夢中になっていた。

「ファイト!!」という声が夢中だった私の耳に届いた。

 

あの先生だった。

 

どうやら彼は男子バスケット部の顧問らしかった。ベンチを見るといつの間にかうちの高校の先生が2人も増えていた。もう一人は現代文のクラスを持ってもらっている先生で彼も男子バスケ部の顧問だという事を試合中に知った。

 

どんな邂逅だ。よりによって教科担当の先生が2人もいるなんて。

そして恥ずかしすぎた。バスケをしている姿を見られたくなんてなかった。

 

教室では目立たず静かに過ごすことに努めている私だったが、ことバスケとなると人が変わったように大声を出すし、走り回るしという姿は自分でも自覚していてそんな姿を見られたくなくそこからとたんに集中力を欠いた。

 

試合は終盤戦へと進み、チームは負けている。

集中力を欠いた自分がどうしようもなく情けなくなり、もうなりふり構わず試合に集中することにした。中学の時に得意としていた、レイアップでファールをとりフリースローを2本貰うというプレーが何とか決まり、フリースローを得意としていた私はフリースロー前に行ういつものルーティーンを遂行した。

 

1本目が難なく決まった後、大きな拍手が起こった。横目で確認すると

あの先生だった。氷の王子。しかも立って食い入るようにこちらを見ている。

 

教室で世界史を教える姿からは想像もつかない熱い目をしていた。

ああ、この人もバスケット大好きなんだなと瞬時に悟る。

その目をする人の特徴を私はよく知っていたから。

 

ふぅ。

 

深呼吸をして更にもう1本を外すことなく決めた。よし、と安堵すると同時に

 

「ナイス!!」

 

またあの人だった。しかも今まで見たことのない飛びきりの笑顔だったから不覚にもどぎまぎしてしまった

 

そう、きっとあの時からだった。

そこから長く苦しい恋慕の情を3年間断続的に抱き続けることになるなんてその時は思いもよらない。

しかも教師に。恋愛漫画じゃないんだからと自分でも苦笑する。

私じゃなくて、チーム全体を応援していたのにね、と何度も自分に言い聞かすも空しく

 

止めたくても止められないあの感じを。

私はまた見つけてしまった。

 

それでも何かに夢中になることは苦しくも楽しかった。

何かに夢中になっている自分も案外好きだった。

 

ああ、またやってしまった。私はギャップに弱いんだよ、勘弁してよね。

 

恋慕、あるいは憧憬

あの人に対するそんな気持ちに私は囚われ続けることになる。